一九六四年には、当時の大統領によって、人工心臓の開発はアメリカの国家プロジェクトとされ、多額な研究費と有能な人材が投入された。だが苦戦が続く。その最大の理由は、N医師が語っていた、「心臓のほんとうの姿が見えていなかった」ためである。「しかし、数年前から、心臓のなんたるかが、やっとわかってきました。もう大丈夫。ここ数年のうちに、人工心臓を実用化することができるでしょう」N医師は、E4Tと呼ばれる最新型の人工心臓モデルを示した。「人工心臓でもっとも問題となるのは、埋め込まれた側の生体が、人工心臓を異物と感じて血栓(血液の小さい塊)を作り、それが細い血管に詰まってしまう。つまり、脳卒中などを起こしてしまうことなのですね。これまでにも、何例か実際に心臓病の患者さんに使われたことがありますが、この血栓の壁をなかなか破ることができなかったのです。血栓形成は、もともとわれわれが生きていくために必要不可欠な生体の防衛反応、神様がつくった自然の摂理なのです。なのにわれわれは、それに逆らっていたのですね」彼はそのことに気がついたという。「それで、神様になんとか目をつむって見逃してもらう。人工心臓の血液の触れる部分をゼラチン処理する、また生体弁を使うことによって、その問題を解決しました」