エミール以来、ネーミングはエルメス製品のいわば「見えないデザイン」となっている。よりイメージに依存するところが大きいスカーフでは売上げにも大きく影響するといい、デュマは「タイトルもデザインと同じくらい重要」だと認めている。スカーフは鞄とは対照的に目に見えるデザインも多様性や象徴性に富んでいて、これまでに1000以上ものバリエーションが登場している。だがそこには不思議な統一感が保たれていて、他のブランドの製品とは大きく雰囲気を異にしている。こうした雰囲気はどのようにして醸成されるのだろうか。「デザインの源には資料となる実物が存在するわけで、必ず何らかの『物語』が隠されている」デザイナーが語るように、エルメスのスカーフの最大の特徴は、徹底した実物や実話の描写による「物語性」が秘められている点にある。例えば馬のモチーフはスカーフの発売当初からの定番だが、多くは3代目社長エミールが収集した馬や当時の旅にまつわる資料からなる「エミール・エルメス・コレクション」から採られたものだ。それは彼の書斎であった本店の一角に収蔵され、現在ではデザイナーたちのイマジネーションを刺激する格好の素材となっている。50万枚以上が売れたベストセラー「式典用馬勒」(1957年、馬勒とはおもがい、手綱、くつわの総称)では、収蔵品から1860年にメキシコのマキシミリアン皇帝が特別に注文した人魚の形をしたはみが描かれている。